バルブステムオイルシール交換
タイミングベルトのテンショナーを外し、カムプーリーからタイミングベルトを外す。次にカムシャフトプーリー、カムシャフトベアリングキャップを修理書で指定された順番通りに外してカムを外すとバルブリフターが顔を出す。バルブリフターはオイルまみれなので磁石を使って取り外すと、やっとバルブスプリングリテーナーにアクセスできるようになる。
作業を細かく見ていく。まずはクランクシャフトプーリーとカムシャフトプーリーの位置合わせ。クランクシャフトプーリーは外周にV字に切り欠き刻印があるので、これをカバーに刻印されている0度に、カムシャフトプーリーは刻印がプーリー背面のカバーのマークに合っていることを確認、このときが1番シリンダーのピストンが圧縮上死点(TDC)になっていることを意味する。この状態でタイミングベルトにマーキングした後にタイミングベルトを外すが、タイミングベルトのテンショナーを外しておかないとタイミングベルトを外すことはできない。
タイミングベルトのテンショナーはオルタネーターのすぐそばにボルト2つでとまっているが、下から通常のソケットで回すことができる。ボルトを外すときはもちろん、テンショナーを取り出すときもピンを入れて戻すときもオルタネーターは移動させたりしなくともスペース的には問題ない。ただクランクセンサーの配線がすぐそばにあるので、そのことを気をつけた方がよいだろう。エンジンスワップ車輌はひょっとするとスタビライザーが邪魔になる場合もあるかもしれない。
またテンショナーを外す際にエンジン側にテンショナーのブーツが画像のように残ってしまうことがあると思うのでチェックすること。
なお、タイミングベルトテンショナーは完全にエンジンより外しておく。テンショナーはピンがついた状態であればエンジンに装着してしまっても問題ないだろうと考えてしまうかもしれないが、これではテンショナープーリーの戻り量が足らずタイミングベルトをかけることができない。
タイミングベルトが外れたら、カムシャフトプーリー、カムシャフトベアリングキャップ、カムシャフトと外していくが、これらの作業行程はエンジン修理書を参考にしてください。ただ、カムシャフトプーリーの取り付けボルトはタイミングベルトテンショナーを外す前に少し緩めておいたほうがいいかもしれない。
さてカムシャフトを外しバルブリテーナーを外したらやっと本題の作業、バルブステムシール交換。しかし、その前にバルブの落下防止をしないといけない。
バルブステムオイルシール交換するにはバルブからバルブスプリングを外さなくては行けないが、バルブスプリングをリテーナーに固定しているリテーナーロックを外すとバルブがシリンダー内に落ちてしまうので、バルブステムオイルシール交換の作業の前にはバルブがシリンダー内に落ちてしまわないように処理しないといけないわけだ。
まず作業するのは1番シリンダーだが、ここはタイミングベルトを外す際に1番を圧縮上死点にあわせてあるのでOK。つまり1番シリンダーのピストンは一番上に来ており、何も処理しなくてもバルブは落ちないので何も考えずにバルブステムシールの交換に入ることができる。なお1番シリンダーと同時に6番シリンダーのピストンも同時に上下するので1番と6番シリンダーは同時並行して作業が可能である。同様に2番/5番、3番/4番は同様に同時作業可能である。
ただ、2番/5番、3番/4番の作業の際は1番/6番シリンダーでの作業と同様にそれぞれの圧縮上死点をだしてバルブ落下防止とする方法と、シリンダーにエアコンプレッサーで空気を詰め込むかあるいはロープを詰め込んでピストン位置を気にせず作業する方法がある。
圧縮上死点を出す方法は一番簡単、プラグを外したところに長いドライバー等を入れ、クランクシャフトのボルトにレンチをかけて正回転させドライバーの柄が一番せり上がるところを見つければよい。バルブタイミングを合わせるわけではないので正確に分度器で何度等とやる必要はない。
エアコンプレッサーを使う方法は空気をシリンダーに送り込んだその力でピストンが下がってしまうということがあるため、あらかじめクランクシャフトの回り止めの処置が必要なのと、エアコンプレッサーの圧が低い場合、虫ゴム付のアダプタではシリンダーに十分な空気を送り込めないことがあるので注意。私は圧縮上死点とエアコンプレッサーの合わせ技で作業をしました。シリンダーにロープを詰め込んでしまう方法は海外のサイトで見つけましたが、空気の場合はバルブの接触面がカーボンまみれでは空気漏れして役に立たないだとか、ロープではシリンダー内で絡んだらどうするとか会話がされていました。いずれも一長一短のようです、エアコンプレッサーの圧不足に気づかずにバルブを落っことしている方もいました。落下防止の処置ができたらバルブステムシールの交換作業開始です。
バルブステムシールを交換するにはまずバルブスプリングとリテーナーとリテーナーロック(コッタ)を外してやらないといけないが、この作業は海外のサイトで見つけた塩ビパイプを使った自作工具で行った。この自作工具は塩ビパイプに磁石のついたテレスコピックツールを組み込んだだけだが、理屈はハスコのコッターツールと同じである。これもハスコのツールと同じようにリテーナーにあてがいゴムハンマーでゴンっと一発叩けば、バルブが縮んで外れたコッタとリテーナーが磁石にくっついてくる。これは面白いように作業が進んだ。最初は外れたコッタが何処かに飛んでしまうのではと心配したが全くそういったことはなかった。
バルブスプリングが外れたら古いバルブステムシールを抜き取り新しいものと交換。この抜き取り作業にはバルブステムシールプライヤーという専用工具が市販されているが、ストレート形状のスナップリングプライヤーがちょうど良く使えました。スナップリングプライヤーは一見ギザギザもないので滑りそうですが逆に面接触になる為かカッチリくわえてくれました。
なお古いバルブステムシールのゴムがちぎれて残っていることがあるのでチェックしカスが残っていればピンセット等で取り除いた上で新しいバルブステムシールと交換すること。
バルブステムシールの組み込みは10mmのディープソケットを使う。あらかじめバルブに指でバルブステムシールを少し通しておき、手に持ったディープソケットでバルブガイドにはめ込むようにする。この時ソケットを押し込みバルブステムシール装着が完了する過程で3回ポクッというハマル感じがわかると思う。1度目はソケットがバルブステムシールにはまった時、2度目、3度目はバルブガイドにバルブステムシールがはまる時だ。
バルブステムシールが組み込めたら次ぎはバルブスプリングとリテーナーとコッタを元通りに組む。この作業も本当なら塩ビパイプを使った自作工具で作業する予定だったが、外すときと違って塩ビパイプ自作ツールでは全くうまくいかなかった。アメリカのノート用紙と日本のコピー用紙はできが違うのか、どうしてもリテーナロックがリテーナーに納まる前にバルブステムで紙を突き破ってしまうのだ。思うにこのツールでうまくやるにはバルブステムがある程度下がった状態でないとうまくいかないのではないだろうか。いや下がっていても同じか・・。
結局この作業はストレートで販売しているバルブスプリングコンプレッサーを使用した。だが、このバルブスプリングコンプレッサーでの作業は楽々というわけでもなかった。一見一度ヘッドにセットすれば後はレールですいすいと各気筒移動して作業できるかなと考えていたのだが、案外そうでもなく対象となるシリンダーにより付け替えて移動させる必要があった。リテーナロックのハメ込みだが、バルブスプリングが縮めば自然とははまるのだろうと思っていたが、そうでもなく、積極的にリテーナロックの納まり具合をピンセットで細かに調整するようにした方がよい。うまくコッターがはまらずにスプリングを戻したり縮めたりとしているうちにコッターをはじき飛ばしてしまうことがあった。暗くなってからの作業は避けた方がよいだろう。
とこんな感じで24カ所を作業していき、カムシャフト、カムシャフトプーリー、カムシャフトベアリングキャップを修理書で指定された順番通りに元に戻し、一応バルブクリアランスを確認したうえでタイミングベルトを元通りにかける。外しておいたテンショナーをプレス等で初期状態に戻しピンを入れ、エンジンに戻してピンを外しベルトに張りを出す。クランクシャフトを2回転させ各プーリーのマークにずれがないことを確認して作業完了。
となるはずだったのだが、ここでトラブル。今回の作業前まではタイミングベルトのテンショナーはピンを戻しておけばエンジンに戻してもOKと勘違いしており、元通りにかからないタイミングベルトに頭を抱え、結局タイミングベルト交換さながらにクランクシャフトプーリーを外すという余計なことまでするはめになってしまった。
しかし途中でテンショナーは外さないと不味いのかなと確かに外してみたはずなのだが、それでもタイミングベルトはかけることができなかった。なんかクランクシャフトプーリーとIN側カムプーリーの間でたるんでかからなかった感じである。もう少し落ち着いてすればベルトはかかったのか、あるいは何かゴミでも噛んでしまっていてだめだったのかは今となってはわからない。
とりあえず総括であるが、バルブステムシール交換はタイミングベルト交換と同時に作業するほうがよい。クランクシャフトプーリーを外さずともタイミングベルトは元通りにかけられるはずだが、万が一今回のようにうまく元通りにタイミングベルトがかからないという場合はタイミングベルト交換と同様の作業が必要になるので、そうなることも頭に入れておいた方がよい。
バルブスプリングコンプレッサー
1JZ/2JZエンジンでのバルブステムシールの交換作業例 : Supraforums.com
4AGエンジンでのバルブステムシールの交換作業例 : EU AE86 community
以下はクランクシャフトプーリーのボルトの作業メモ。
クランクシャフトプーリーのボルトを緩めるのにスペースを空けなくてはならない。2柱リフトでもあればラジエター等そのままに下からレンチをかませ作業できるが、フロアジャッキとリジットラックで稼げる高さではパイプをかませたレンチを回すスペースが取れない。この高さでもレンチをかけ、パンタジャッキでレンチを押し上げる等の方法でボルトを外したり締めたりという作業例もあったが、こういうジリジリとトルクをかける方法ではボルトが伸びたり、なめてしまったりして私の作業経験ではうまくいったことがない。よって着地状態で上から作業するために作業スペースを空けなくてはならない。
色々やってはみたのだが、結局、油圧ファンのユニットをラジエターにつけたまま外した。油圧ファンのホースはリターンホースのタンク側と高圧ホースのファン側を外した。リターンホースを外すと同時にタンクに栓をし、リターンホースよりユニット内のフルードを流し、出し切ったところでここも栓をした。油圧ファンのユニットの高圧ホースは外してもそれほどこぼれなかった。いずれもガレージを汚してしまうようにはこぼれてこないので心配はない。
最初は横着して油圧ファンのホースもそのままに油圧ファンユニットだけラジエターから外して済まそうと思ったが無理。次に油圧ファンのホースはそのままにラジエターごと邪魔にならないように外せないかと思ったが、高圧ホースに無理をかけてしまうのでこれもだめだった。
クランクシャフトプーリーのボルトはロングのスピンナハンドルに単管パイプ1mをかませて緩めた。すでにディーラーさんでの作業だが2度タイミングベルトを交換しているので予想していた程硬くはなかった。ロングのスピンナハンドルだけでもなんとかいけたんじゃないかと思うが、一気にトルクをかけて緩めたかったのでパイプで延長して行った。クランクシャフトの回り止めはマニュアルミッションなのでギアを入れ輪留めをかけてサイドブレーキがっちりで行うことができたが、これでもレンチの回し始めはクルマがぐぐっと前に出ようとするのでちょっとびびった。ATミッションの場合はGGTさんの方法等を参考にすると良いだろう。
タイミングベルトの作業を終えクランクシャフトプーをクランクシャフトに戻すのだが、クランクシャフトプーリーが手だけでは元の位置まですっきり納まらずプラハンマーでコンコン叩いて奥まで入れた。ボルトの締め付けトルクのこともあるので、クランクシャフトプーリーは外す前にどれくらい奥まで入っていたかメモするか写真を撮っておく方がいいかもしれない。
さて1JZエンジンのクランクシャフトプーリーのボルトの締付けトルクは規定では330Nmなのだが、手持ちのベータのトルクレンチのレンジは200Nmまでなので、100、150、200Nmと締めていき、緩める前につけておいた印を目標にロングのスピンナーハンドルで締め付けた。
狙って締めたわけではないが印よりもちょっと越えたところまで結果締めたので多分大丈夫だろう。
300Nmのレンジを持つトルクレンチとしてはWERA製、ベータ製で2〜3万円程、1000Nm等のより大きなレンジを持つトルクレンチもあるが皆大型用となる為価格が安いものでも5万円程。概ね8万円程度の価格帯となる。
注:今回の交換部品はバルブステムシール交換のみ。タイミングベルト、Vリブドベルト、テンショナ、Vリブドベルトテンショナ等は交換時期でないので検品の上再利用している。
1/2 ロングスピンナハンドル 630mm
このアイテムは閲覧専用です。コメントの投稿、投票はできません。